フィリピンの下水道普及率はまだまだ低い。首都圏のマニラでさえ、10%程度(2005年時点)。生活排水は「腐敗槽」と呼ばれるタンクに集められる。長期間の貯留による衛生問題、浸透による地下水汚染が深刻な問題と化していた。それを解決する一大プロジェクトとして、2006年3月、民間の上下水道事業会社から生活排水処理施設の建設工事を受注した。
JFEグループはフィリピンで20年近く水処理関連の工事に取り組んでおり、地元密着の活動が高く評価されている。さらに品質・アフターサービス面でも絶大な信頼を得ている。こうした実績に裏打ちされたコスト競争力、そして現地のニーズを追求した技術力が評価された形だ。
建設工期は契約納期より4ヶ月短縮して2007年4月に竣工。竣工式にはアロヨ大統領をはじめ多数のVIPが出席するセレモニーとなり、現地でもJFEの工事品質に高い評価がなされた。
入札時点では社内関係部署との協議と提案書の作成を取りまとめ、プロジェクト開始後は営業担当として最前線でフォローにあたった橋本さん。さらに、技術担当者として現地の建設会社を指揮した中本さん。現在、別々の仕事を行っている二人が、成功をおさめたプロジェクトを振り返る。そこには、壮絶な困難を乗り越えたドラマもあったようだ。
【中本】 橋本さん、どうもお久しぶりです。
【橋本】 やあ、中本。元気に頑張っている?あれから1年以上経つけど、今振り返っても結構大変なプロジェクトだったよな。
【中本】 そうですね。とても貴重な経験が積めたと思います、本当に。
──実際、フィリピンでお二人はどのようなプロジェクトに関わったのでしょう?
【橋本】 2005年当時、フィリピンの下水道普及率は全体で8%、首都マニラでさえ10%程度でした。生活排水の殆どは「腐敗槽」と呼ばれるタンクで処理され、残った汚泥を汲み取る形が一般的。ただバキュームカーが足りないので長い期間放置されたり、そのため蚊が大量発生したり、河川が汚染されたり、衛生問題が深刻でした。それを解決するために、マニラ北部と南部の2ヵ所に生活排水処理施設を建設することに。世界銀行の融資による公共事業で、総合評価方式でJFEが落札したのです。
──JFEが評価された決め手は何だったのですか?
【橋本】 現地での10年以上の実績に加え、総合評価方式の中で技術提案内容のレベルが高かったことと、日本企業でありながら中国やシンガポールの企業に匹敵するコスト競争力があったことが契約の決め手だったと思います。中国やシンガポール等の企業との競争だっただけに、受注できた時は嬉しかったですね。中本は、契約後に参加したんだよな。
【中本】 そうです。フィリピンに行ってくれないかと言われて・・・。将来的に海外案件をやってみたい希望はあったのですが、こんなに早く仕事をすることになるとは思いもよりませんでした(笑)。
──お二人はどのような関係で仕事をされたのでしょう?
【橋本】 私は受注後、月に1〜2回の割合でマニラを訪ねて、営業・管理的な側面から工事のフォローをしました。現地の建設会社との刷り合わせの部分でも、調整のお手伝いをしたね。
【中本】 そうでしたね。私は現地での設計と施工管理が仕事でした。当社のフィリピン人技術者や現地の建設会社へは、片言の英語と身振り手振りで指示を出しました。日本と違い、良くも悪くも細かいことにこだわらなかったり、契約条件等の約束事に意見の相違があったりもしましたが、根気強く折衝して、結果オーライでした。
【橋本】 そうだね。最初のうちは本当に大変だった。でも、会社は我々若手にある程度委ねてくれていて、信頼されているからには頑張ろうという気持ちになったよね。いろいろトラブルはあったけど、試行錯誤しながら取りまとめて、品質を維持しながら納期はしっかり守れました。最終的に時間はロスするどころか、早目に完成。現場をうまく指揮してくれた中本ら、技術者のおかげだと思っています。
【中本】 確かに、言葉や習慣のちょっとした違いで国内ではありえないところでつまづくことを実感しました。ただでさえ大変な現場なのに、日本とは気候が全く異なるので、健康管理の大切さも痛感しました。
【橋本】 私も現地にいる時間が長いので、体調にはすごく気を遣っています。
【中本】 そんな辛い時期を乗り越え、竣工式ではアロヨ大統領をはじめフィリピンのVIPが集まり、労いの言葉をかけていただいたりして感激しました。同時にそれまでの疲れも感じ、かなりぐったりでした。
【橋本】 ああ、自分も一段落したことでホッとした気持ちの方が強かった。ただその時には現地で別の下水処理場の建設工事を受注したり、他の営業活動にも追われていたので、完成した喜びに浸っている暇はなかったな。
【中本】 あ、そうそう。進捗の報告のために日本に戻ってきた時には、橋本さんが何か旨いものを食いに行こうと言ってくれて、ご馳走してもらいましたね。その時は本当に美味しく感じました。こう見えて、橋本さんは後輩思いなんですよ。
【橋本】 なんだよ、こう見えてもって(笑)
──完成した生活排水処理施設はどんな機能があるのでしょうか。そしてこの仕事のやりがいは?
【橋本】 この腐敗槽の汚泥を処理する処理施設は、北部と南部を合わせて処理対象人口は500万人という大規模なもの。汚泥は痩せた土地を改良する土壌改良材として活用され、汚水は処理設備を使い浄化します。これにより、美しいマニラ湾を守ることにも貢献できたはず。インフラ整備の醍醐味、これがあるから海外のプロジェクトは止められないのです。
【中本】 言葉や文化のギャップを一つずつ克服して、プロジェクトを遂行したやりがいは本当に大きいですね。海外案件の仕事を続けている橋本さんのバイタリティには本当に頭が下がります。自分も英語は片言しかできなかったのですが、今回の経験で自分に意思があれば、身振り手振り、また絵や図面を指して通じるものだということが分かりました。気持ちこそが大切なんだ、と思いますね。
【橋本】 そうなんだよ。英語やTOEICの点数を気にする人も多いだろうけれど、要は海外でやってみたいという気持ち、やる気なんだと思う。
──今後はどういうことが目標になりますか?
【橋本】 フィリピンの仕事はできるだけ続けていきたいし、“海外営業なら橋本”と呼ばれるような存在になりたいですね。今後は水処理施設だけでなく、ガス化溶融炉など、当社の多彩な商品・システムを手掛けてみたいと思っています。
【中本】 私は今、国内の水処理施設が中心ですが、また機会があれば海外の仕事もしたいと思います。
【橋本】 とにかく人が好きで、どんな時にも前向きに、どこにでも飛んで行けるような人にぜひ入ってきてもらいたいよな。
【中本】 同感。特に事務系は、人と会話ができること、折衝能力が大切ですね。橋本さんのようなバイタリティがあれば、絶対大丈夫だと思います。
【橋本】 最後に先輩を持ち上げてくれて、ありがとう(笑)。