環境先進国ヨーロッパにあっても、ごみの資源化はまだまだ大きな課題で、そのための技術がなかなか確立できないでいる。そこで、世界でも数少ないガス化溶融炉の開発に成功し、日本国内で実績を上げているJFEエンジニアリングに白羽の矢が立った。
1944年創業、民間でローマ最大の廃棄物処理会社SCA社と「アルバノ地区における高温ガス化直接溶融炉建設のプロジェクト」に関して、2006年2月に技術供与の契約を結ぶ。その後、JFEエンジニアリング国際事業センターの提案により、全体のエンジニアリングと主要機器の供給及び現地へのスーパーバイザー派遣までを担当することに。
高温ガス化直接溶融炉は、JFE独自の技術が活かされた施設。コンパクトな一つの炉でごみを一気に溶融・ガス化する。発生した可燃性ガスは高効率発電に利用され、また溶融物は完全無害化され資源として利用できる。これまでイタリアでは製造されたRDF(ごみ固形化燃料)は、焼却または埋め立てされていたが、それをガス化溶融発電に転換することでごみの資源化につながる。このプロジェクトでは1日最大約900tものごみ処理を計画しており、世界最大のガス化溶融施設となる予定。さらにガス化してローマ市に1日最大約50メガワットの電力を供給できるとあって、約3年後の完成に期待が高まっている。
このAPP(アルバノパワープラント)プロジェクトが本格的に動き出したのは2008年4月。環境プラント技術者として将来有望な2人がこのプロジェクトに参加。本格的な設計・施工に向け準備を重ねているが、国際舞台での仕事だけに”絶対成功させたい”との思いがある。
──APPプロジェクトにおける2人の役割を聞かせてください。
【永山】 当社がイタリアのSCA社と技術供与の契約を結んだ後、私は2006年4月に国際事業センターに配属され、今後どのようにプロジェクトを進めたらいいかを企画する立場になりました。その後、お客様に企画提案が認められ、当社が全体のエンジニアリング業務と主要機器の供給及び現地の据付事業者が行う工事のスーパーバイザーまでを担うことに。2008年5月にプロジェクトが本格スタートしたわけですが、ガス化溶融炉に関する技術では当社第一人者の多々見さんに加わっていただき、心強いばかりです。
【多々見】 私はイタリアのお客様に技術供与を行った際、広島県福山にある1日314tを処理するガス化溶融炉の図面や技術資料を英語化して提出し、あわせて技術説明を担当しました。そのときの会議で永山君とは接点があっのだけれど、今回初めて一緒のプロジェクトで席を並べることになったのです。互いの役割としては、私が副PM(プロジェクトマネージャー)兼プロジェクト主任としてイタリアに常駐するPMとの橋渡しや技術交渉の窓口となり、永山君がプロジェクトエンジニアとして国内での設計作業を統括するという感じだよね。
【永山】 そうですね。私はドイツの大学・大学院で環境分野を学んだ時に、日本の技術が高度なことを再認識。資源化・リサイクル化を総合的に進めている当社に魅力を感じて志望した経緯があります。入社後にプラント設計技術を培ったこと、そして語学力も活かして仕事ができるとあって、このプロジェクトには今とてもやりがいを感じているところです。
──すでに一緒にイタリアのお客様に行かれたりしたのですか。
【多々見】 はい。2008年6月中旬にイタリアでキックオフ・ミーティングが開かれたのだけど、当社からは5名がチーム体制で参加してきました。その時に永山君には本当にいろいろ助けられました。彼はドイツ経験があるので、ドイツ語はもちろん英語も堪能。地下鉄に乗るのもドイツ語の標識を選択してチケットを買う姿には驚いたよ。ホテルでも先回りして細かなことをすべてやってくれたしね。
【永山】 いえいえ、そういう多々見さんこそ技術的なベースがあるので会議の席でとても頼りがいがありました。自社開発のガス化溶融炉に関しては、どういう風に開発して何が技術的な核となるかすべて知り尽くしていますよね。
【多々見】 互いに褒め合うのはなんだか気持ち悪いから、やめようか(笑)。
──現地で文化の違いなどに困ったことはありませんでしたか?
【多々見】 イタリアは北部と南部で気風がガラリと変わると言われています。お客様は割と几帳面な人が多い北部出身者で日本にも滞在経験があるなど、ビジネスルールもきちんと遵守してくれそうで問題はなかったね。ただ時間の感覚が少し違う印象を受けたので、計画通りに運ぶかどうかはこれからの密なやりとりにかかってくるでしょう。
【永山】 ビジネスの場では英語を共通語とするので、互いが歩み寄るような感じで、コミュニケーションは比較的スムーズに行きましたよね。会議では互いにどういう図面やドキュメントを、どういうタイミングで出し合うかといったことまで話せました。建設予定地のローマ郊外のアルバノ地区も視察し、広大なこの土地に創るんだという実感も持ちました。
【多々見】 ちょうど訪ねたときがサッカー「ユーロ2008」の真最中で、現地メーカーとのミーティング当日の夜もイタリアの試合があって多少時間が重なったのだけれど、先方はしっかり会議に集中してくれたよね。終わった後は一目散にテレビ観戦に繰り出して行ったけど(笑)。永山君がサッカー好きで、そうした会話に対応したくれたことも雰囲気が円滑になり良かったよ。
【永山】 確かにサッカーの話題になると向こうは止まらない感じがありますからね。イタリアの試合の日は町中が国旗で埋め尽くされていて、熱狂的な雰囲気も味わえましたね。
──今後はどういう風にプロジェクトを進めていきますか?
【多々見】 ガス化溶融炉の特徴は幅広いごみに対応できること。燃えるごみはガス化して発電に活かせるし、灰と金属に関してはスラグとメタルに再生できる。スラグは道路の路盤材や埋め戻し材に活用できるし、メタルも還元材として利用でき、無公害化・リサイクル化という視点で大きく貢献できます。しかも当社の環境案件ではヨーロッパで初の建設となり、やりがいは十分。これから言葉・習慣の違いや、施工時に問題が起きることもあるかもしれないけれど、コミュニケーションをまめに取って成功に導けるよう動いていきたいですね。
【永山】 当社にとっても本当に意味のあるプロジェクトだと感じています。これが成功すればイタリアはもちろん、ここが端緒となって当社の技術・プラントがヨーロッパ全土に大きく広がる可能性もありますね。
【多々見】 とりあえず1号炉を先行スタートさせて、2010年末に運転開始させることが目標。現地のメーカーと協力して創っていくので、プロジェクトの後半は私もイタリアに常駐することになるでしょう。さらに2号炉・3号炉までの3炉を建設する計画もあり、ヨーロッパ初のプロジェクトをぜひ成功させたい。ローマの街の灯を見て、”あれに自分も一役買っている”いうことを感じてみたいね。
【永山】 今後、地球規模で環境対策が進むでしょうから、市場が盛り上がるのは必至。学生の皆さんも、こうしたビッグプロジェクトに関わるチャンスは十分あるでしょう。
【多々見】 特に海外志向があって、環境プラント建設に携わりたい人は当社としても大歓迎だよね。エンジニアとしての喜びを味わえる仕事だと思うので、その喜びをぜひ一緒に分かち合いたいね。